AIコーディングツールが登場し、開発スタイルが大きく変わろうとしています。ただ、多くの開発者がAIを「ちょっと頭が良いコード補完」くらいに捉えていて、生産性が爆発的に上がった、とまでは感じていないのではないでしょうか。
この記事では、コーディングの主役を思い切ってAIに任せ、「声→AI→レビュー」という新しい開発サイクルを回すことで、キーボード中心の開発から抜け出すための具体的な方法を紹介します。
1. 新・開発サイクル:「声→AI→レビュー」モデルとは
これまでの開発が「考えて、打って、直す」という流れだったとすれば、AIが中心の新しい開発サイクルは、次の3つのステップで回っていきます。

1. 声(Voice)で意図を伝える
キーボードで要点だけを伝えるのではなく、声で「なぜこれが必要で、どういう背景なのか」といった内容まで含めてAIに指示を出します。こうすることで、コンテキストの豊かなプロンプトが出来上がります。
2. AIとの協調設計とコード生成
受け取った厚いコンテキストを元に、まずAIと対話しながら実装の設計を固めます。これは一方的なコード生成の依頼ではなく、関数のシグネチャ、クラス構造、処理フローといった「仕様」をAIと共同で策定するプロセスです。AIに設計案を出させ、開発者がレビューと修正を指示し、合意形成ができた段階で初めて最終的なコード生成に移ります。この協調設計のフェーズを挟むことで、手戻りが少なく、より精度の高いコードを生成できます。また、本格的なコード生成の実行中は、開発者は待機せず別のタスクに着手することで、思考の並列化を図ります。
3. レビュー(Review)して確定
AIが生成したコードの差分を確認し、問題なければ取り込みます。もしイメージと違えば、また声で追加の指示を出してサイクルを回します。
このサイクルの中では、開発者の役割はコードを打つ「プログラマー」から、AIの成果物を評価してプロジェクトの舵取りをする「設計者」や「レビューアー」に変わっていくわけです。
2. 開発サイクルを支えるツールたち
この「声→AI→レビュー」サイクルを滑らかに回すため、私が使っているツールを紹介します。
2.1. Superwhisper:声で「厚いプロンプト」を作る

AIから質の高い答えを引き出すには、なんといってもプロンプトの質が重要になります。しかしキーボードで書こうとすると、プロンプト薄くても回答してくれるため、どうしても要点だけになりがちです。
キーボード入力の例:
サーベイの集計レポートダウンロードが遅いので非同期にしてください
音声の入力の場合に人に依頼するように思ったことをすべて伝えることが容易になります。
音声入力による「厚いプロンプト」の例:
サーベイの集計レポートのダウンロード機能を、同期処理から非同期処理に切り替えてください。マネージャーが長期間のレポートをダウンロードしようとすると、過去の時系列データが多くて時間がかかっちゃってそうです。ダウンロードボタンが押されたら、リクエスト内でファイルを生成するのではなく、Cloud Tasksとか利用して非同期でやりたい。たしか別のプロダクトのユーザー情報ダウンロード機能もそんな感じだったと思います。参考にして。まずはそんな感じでやるか現在の実装確認しながら方針考えて
このように、声で指示を出すと、自然とAIに渡す情報の密度が上がります。この情報濃さの差が、AIが一発で正解を出せるか、それとも何度も的外れなやり取りを繰り返すかの分かれ道になります。Superwhisperは、この「厚いプロンプト」を作るための強力な武器になります。
2.2. TourBox Neo:サイクルを回すための司令塔
AI中心のワークフローになると、「アプリを切り替える」「差分をスクロールする」「声の入力をON/OFFする」「修正を確定する」といった細かい操作が何度も発生します。これをいちいちキーボードやマウスでやっていると、集中力が途切れたり、地味に疲れたりしますよね。
そこで私が「ワークフローの司令塔」として使っているのが、物理デバイスのTourBox Neoです。具体的には、こんな役割分担をさせています。

- ダイヤル: アプリケーション(IDE、ターミナル、ブラウザ)の切り替え、タブ移動
- スクロールホイール: 長いコード差分やドキュメントの閲覧
- メインのボタン左: Superwhisperでの音声入力開始・停止
- メインのボタン右: Enterキーとして機能(コードの確定、コマンド実行)
これによって、「話す→作らせる→読む→確定する」という一連のサイクルが、TourBoxから手を離さずに完結するわけです。昔はキーボードを叩くリズムが開発のテンポを作っていましたが、今ではTourBoxの物理的なクリックやダイヤル操作が、私の新しい開発リズムになっています。
3. 新ワークフローへの移行戦略:物理的な仕組み化
ただ、この新しいやり方に移行する上で、一番の敵は自分自身でした。特に、長年コードを書いてきた人ほど、「自分で書いたほうが速い」という感覚が体に染み付いています。ちょっとした修正のたびに、ついキーボードに手が伸びてしまうんです。
そこで、この「昔の自分」に戻ってしまうのを防ぐために、私は 物理的に環境を変える という、少し強引な方法を取りました。具体的には、 キーボードをあえて打ちにくい場所に置き、TourBoxを両手で持つ状態をデフォルトにした のです。
これは根性論や意識の問題ではなく、新しい行動を習慣にするための、いわば「仕組み化」です。物理的に「書きにくい」状態を作ることで、古い習慣に戻るのを防ぎ、新しい「声→AI→レビュー」のサイクルに体を慣れさせていく。このちょっとした環境デザインが、単にツールを揃えるだけでは越えられなかった、最後の壁を突破する鍵になりました。 この無理にでもIDEと離れる期間を取ったことで、IDE離れができました。
まとめ
この記事で紹介してきたように、実装作業の主役をAIにすることで、開発者のメインの仕事はAIの成果を評価する「レビューアー」へと変わっていきます。この新しい開発スタイルを自分のものにするためのポイントは、以下の3つにまとめられます。
- 「声→AI→レビュー」という新しい開発サイクルを定義し、回すこと。
- 音声入力と物理デバイスを組み合わせ、サイクルをスムーズに操作できるツール環境を整えること。
- 古い習慣に戻れないよう物理的な環境を作り、新しいやり方に自分を適応させる仕組みを作ること。
AIで本当に生産性を上げるには、便利なツールを一つ導入するだけでは不十分で、開発プロセスそのものを一つのシステムとして見直し、再設計することが大切なんだと思います。
この新しいワークフローを取り入れることで、IDEベースの開発から解放され、よりAIエージェントと協業しながら価値を生み出す未来が、すぐそこまで来ていると感じています。ぜひ皆さんも、自分なりの「声→AI→レビュー」サイクルを試してみてください。